止まらぬ「音楽」欲について
- 2022.10.12
- その他
コロナ禍以前は、夫婦でコンサートや
音楽会によく出かけていました。
マスク生活になり、その機会も
めっきり減っていました。
「生」の音に接する機会が減っていたのです。
夫婦ともに生音渇望症ですが
夫は重症です。
特に吉右衛門さんなき今、
歌舞伎座に行くこともなくなりましたし
オーディオショップで、爆音でいい音を
視聴させてもらう機会もなく……
唯一の吉報は團十郎襲名です。
襲名披露記念の特別公演
「勧進帳」だけはマスクをしてでも
見なければ!とチケット争奪戦に
参加しましたものの、「秒」で完売。
待っていたのは虚無感のみ、でした。
ということで、家の外で音を
感じる楽しみはここ2年以上
ない状態が続いていました。
一方、わが家のリノベーションに
よって、リビングルームの音環境は
グーンと良くなり、
室内の音環境は「天国」と
夫婦ともに満足していました。
そうこうしているなか、
つい先日、
わがマンションのロビーで、
音楽大学の学生さん3人が音楽会を
開いてくれたのです。
ピアノ専攻1人と、声楽専攻の2人
(ソプラノ、テノール)です。
住人向けの音楽会なので、多くの
人になじみがある歌(想像がつく
かと思いますが、お耳の大きな
ねずみさんの世界の歌たちです)が
主だったのですが、
日頃勉強されている
本格的なクラシックの曲も、
各人が独奏・独唱してくれました。
「生」のピアノの音、人の声が
実に心地よく、からだにしみ渡ります。
久しぶりの生音に、終始大満足
でしたが、重度の生音渇望症の夫は
陶酔状態です。
目を瞑って聞き入り微動だにしません。
完全にノックアウトされたのでした。
マンションのロビーは1、2階が
吹き抜けで、多少響きは良いと
思いますが、音楽ホールにはほど遠い環境です。
それでも、忘れかけていた
「マイクロホンやスピーカーを通さない音」
のすばらしさを全身に浴びた夫は、
閉じた目の中にハートが見えるようでした。
こうなると……
何かいやな予感がします……。
音楽会が終わり、後ろ髪を引かれ
ながら自室に戻った夫。
さっそく「Spotify」でさきほどの
演奏と同じ曲を探しだし、
音響システムを鳴らして聴き比べです。
やはり、
明らかに学生さんの「生音」「生声」
のほうがGOODです。
スピーカーから「生音」「生声」は
絶対出てこない、
ということは重々承知しています。
より「生音」に近づける努力をするか、
「生音」風の雰囲気に持っていくか
しかないはずです。
「コストに見合う音の改善は難しいのが現実」
であると、自らに言い聞かせ
心拍数の高鳴りをおさえる夫。
また夫の悩み、というか、
「音」へのあらぬ欲望が、
体じゅうを渦巻く音が聞こえてくるのです。
ホラー映画のように……。
たしかに
生の音の響きとキラキラ感は
何ものにも代えがたい宝物です。
美しい音の響きだけで
人の心を幸せにできるなんて
すごいことです。
夫は、よいものを見たり
聞いたりすると、
心底感動する半面
「この感動を家でも再現したい」
と、自分の欲望と対面する
ことになります。
感動と同じだけ苦しむのです。
この欲望があるかぎり、
シニアライフはプログレッシブなものとなるでしょう。
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